このページでは、平成27年から31年度(令和2年)まで実施された新学術領域研究(領域提案型)の『反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製』について紹介しています。
「反応集積化が導く中分子戦略」について
低分子と高分子の中間に位置する中分子域(分子量400-4000)の化合物は、医薬・農薬などの生体機能分子として注目されています。
本学術領域では、素反応や反応装置から反応集積を進化させる研究者(A03班)、天然物を含む有用中間体を効率よく合成する研究者(A02班)、新規生体機能性中間体を創出する研究者(A01班)が連携し、中間体の実用化に向けた研究を行っています。
研究領域 | 中分子戦略 |
研究種目 | 新学術領域研究(研究領域提案型) |
代表者 | 深瀬浩一(大阪大学理学研究科教授) |
実施期間 | 2015年6月29日~2020年3月31日 |
研究課題/領域番号 | 2707 |
研究概要
低分子と高分子の中間的な大きさの中分子領域(分子量400〜4000程度)の化合物は、医薬・農薬などの生体機能分子として注目されています。この領域の分子には、天然物、糖鎖、ペプチド、核酸医薬などさまざまな化合物が含まれ、化学的多様性に富んでいます。
また、多点相互作用に基づく厳密かつ多様な分子認識が可能であることも、中分子の重要な特徴です。中分子は、さまざまな標的タンパク質に対して、「鍵穴」認識、タンパク質表面認識、あるいはその両方を用いた認識など、多様な認識様式を持ち、複数の標的に同時に作用することで生体機能のダイナミックな制御を可能にしています。中分子は、経口投与が可能であること、細胞膜や血液脳関門を透過することなどの特徴に加え、より高い生体機能を有する分子として大きな可能性を秘めています。
一方、中分子は構造が複雑なため合成が困難な場合が多く、また、複数の工程を必要とすることが利用の障害となっています。そこで、本プロジェクトでは、革新的な合成戦略と高次反応集積化により、生体機能性中間分子の高効率合成を実現し、高次機能性中間分子を創製して、生体機能性分子開発の新分野を切り開くことを目的としています。
研究内容
この研究では、以下のことを行います。
- 天然由来の生体機能性中間体分子の合成
- 複数分子の複合化による機能集積型ハイブリッド中間分子の合成
高次生体機能性中間分子の合成は、天然由来の生体機能性中間分子の合成、複数の分子の複合化による機能集積型ハイブリッド中間分子の合成の2つの戦略に基づいて行われます。中間分子の効率的な合成のために、反応集積化による合成効率の向上に取り組みます。
A01グループは、糖鎖、核酸、ペプチド、脂質などの生体機能性中間分子の合成、錯形成による機能集積型中間分子の創製、π電子系化合物などを用いた新規生体機能性中間分子の創製に取り組んでいます。A02班は、天然物などの生体機能性中間体の高効率合成を行います。
A03班では、マイクロフロー合成を用いた連続反応プロセスの開発、多段階合成のための実用的な反応の開発を行っています。反応連結に伴う問題を解決するために、様々な反応物、触媒、活性種を用いたフロー反応開発、触媒の固定化、官能基選択的・位置選択的合成反応開発、フロー反応装置開発などを検討します。
この研究領域では、反応集積化による高効率プロセスの実現により、複雑な構造を持つ中間分子の高効率合成を実現することを第一の目標としています。中間分子を実用的に合成可能な範疇に入れることで、生体機能性分子の研究が飛躍的に進展することが期待されます。
さらに、世界を脅かす感染症や重篤な病気、農業生産を脅かす病気や害虫など、深刻な社会問題を解決するための革新的な医薬品、診断用分子、農薬として、より高い生体機能性中間分子の開発が期待されています。例えば、高性能免疫アジュバント、合成ワクチン、細胞選択的抗がん剤、害虫特異的殺虫剤、成長因子様中間体、分化誘導制御化合物、遺伝子調節中間体、細胞機能調節分子、生体分子の高感度検出などです。将来的には、生体情報を検出し、生体作用を示すインテリジェントな生体制御分子の創出が期待されます。